掌編小説【屋上】
抓んだ紙巻を口元へ。
爪と同じ色に潤んだ唇。
吸い込む煙は肺に沁み、
細く紡ぐように唇の隙間から漏れ出す。
紫煙を吐きだす相手は青空。
冷たい鉄柵に凭れかかって、
悩み一つない快晴に灰の雲を吹き掛ける。
心に浮かぶ思考や感情。
ない交ぜにして共に吐きだす。
言葉にならない想いを紡いで、
煙で編んだ呪いを吐きだす。
苦悩、諦め、怒り、無気力。
呪いはすぐに空へと散るも、
胸の内にはタールが残る。
根元まで焦げた灰の残り火。
黒のヒールで押し潰す。
冷たい鉄柵から体を離し、
明るく眩しい空を見上げる。
黒々とした前髪の向こう側。
細めた瞼に敵意を示す。
淀んだ空気を目一杯吸いこみ、
「死ね」と小さく青空に吐いた。
『屋上』